最強の処刑人、最期の刻…。
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【あらすじ】
ザ・フッドとの戦いを制したパニッシャーことフランク・キャッスル。そんな彼の存在を煩わしく思う者がいた。ノーマン・オズボーン。ニューヨークを手中に収め、その支配力を完全なものにしようとする彼にとってはパニッシャーは脅威でしかなかった。悪魔の能力を持つ者でも勝てないなら、自身が持つ圧倒的な力で捻じ伏せるのみ。
バンにて休息を取るパニッシャーにノーマンが指揮するH.A.M.M.E.Rの艦隊、そして最恐の刺客が迫っていた…。
【DEAD END】
グリーンゴブリンことノーマン・オズボーンがニューヨークを手中に収め、自らの支配力を高めようと暗躍を続けてきた「ダーク・レイン」。その中で多くのヒーローやヴィランたちが逆境に立たされたり、ノーマンに組みしたりと後々の展開にも影響を与えてきたが、特にインパクトが強かったのがこの「ダーク・レイン:ザ・リスト‐パニッシャー」だろう。
ザ・フッドと彼が復活させたヴィランたちとの戦いを辛くも乗り越え、勝ち残ったパニッシャー。そんなパニッシャーを始末するべく本腰を入れたノーマンは、空中母艦ヘリキャリアとゴブリンのグライダーを装備させたエージェントたち、そして自身もアイアンパトリオット・アーマーを身に着け、今度こそパニッシャーを消しにかかる。
この圧倒的な絶望感はそうないだろう。いくらパニッシャーが強くても、この物量はどうにもならないのは目に見えているから。
このノーマンの動きをパニッシャーが知らないはずもなく、艦隊の空爆が始まる前にバンから逃げ出し、地下に潜るパニッシャー。巨大な爆発から逃れたパニッシャーを追うグライダーから部隊の追撃をも辛くも振り切り、逃亡するパニッシャー。パニッシャー自身も、今有する装備ではこの状況をひっくり返すことはできないことは分かっていた。パニッシャーの身を案じて戻ってきたヘンリーを気絶させ匿いながらも、フランクはひたすらに地下を目指す。今は逃げる、だが、態勢を立て直し次第に逆襲する。そう誓いながら。
しかし、このパニッシャーの動きをノーマンは予測していた。パニッシャーのこれまでの戦いから、彼の行動パターンは筒抜けだったのだ。ならばパニッシャーが向かいそうな場所に刺客を放てばいい。それもパニッシャーの攻撃を凌ぎきり、体を引き裂き、確実に息の根を止めることができる者を。ノーマンの配下にはその適任者が1人いた。
この獰猛なプレデターの猛攻に負けじと銃弾を放ち、ルール無用の目潰しに噛みつきをお見舞いするパニッシャー。まだまだ若く発達途上の戦士であるダケンもパニッシャーのラフファイトに無視できないダメージを負い、狼狽する。しかし、それでもダケンの優位性は覆らない。いくらダケンの体に鉛玉をお見舞いさせても、目玉を抉ろうとも、爆弾で吹き飛ばそうともダケンの身体に備わるヒーリング・ファクターがダメージを全快させる。
無敵の処刑人であるパニッシャーは肉体はただの人間。どれだけ足搔いても、結果は見えていたのだ。
追い着いたダケンの爪で銃はバラバラに切り刻まれ、ナイフで応戦するも少しずつ体を切り裂かれるパニッシャー。足は震え、振るう腕も失い、首を切り裂かれ、夥しい量の血が噴き出し、雨で流される。
もはやパニッシャーに勝算は万に一つもない、だが、それでも闘志と溢れる殺意は衰えない。それは“パニッシャー”として戦い続けると決めた自分への誓い、そして自らの手で引導を渡した愛する妻子への贖罪も込められていた。あの日、蘇った妻子を焼き殺した時に、パニッシャーの命運も決まっていたのかもしれない。自分がここまでボロボロになりながらも戦い、そして今まさに命を落とそうとしているのは多くの悪党の命を奪ってきた罰なのか。モノローグで語られるフランクの妻への問いかけが切ない。
このまま黙って死を待つのは許せない、ならば最後まで足搔いて、足搔ききる。そうすればマリアが待っていてくれるかもしれないから。死を前にしたパニッシャーの顔は、復讐に取りつかれた処刑人のそれではなく、不器用な夫フランク・キャッスルのそれだっただろう。そんな優しくも哀しい幻覚を見ていたフランクの視界は瞬時に真っ黒に染まる。
パニッシャーの死。それはマーベルユニバース、そして当時の読者に大きな衝撃と波紋を起こしたといえるだろう。これまでどんなに絶望的な状況におかれ死にかけても、死ななかった男が悪党の手で引導を渡されてしまったのだ。
かつての相棒が敵になり、自分を慕う者を突き放し、最後にパニッシャーの死を看取るのは誰もいない。犯罪という強大な悪に、たった一人で戦い続けた男の死にざまとしては非常にドラマチックだがショックの方が大きかった。
こうして、パニッシャーの復讐から始まった戦いは終わりを告げたのだった。