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アメコミ:PUNISHER:IN THE BLOOD#5

パニッシャーvsジグソー、決着!

宿敵の因縁、親子の確執。全てのしがらみにケリを付けろ!

 

前回はこちらから↓

 

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【あらすじ】

長年に渡った因縁に幕を下ろす時が来た。

息子への怒りと慈愛の感情がない交ぜになったジグソーは錯乱。自分を裏切った息子を許す代わりに、自分と同じ“継ぎ接ぎ”にしようと迫る。当然、そんなものは御免だと父に許しを請うヘンリーの姿に一瞬だけ正気に戻ったジグソーだが、ヘンリーは父親の元から逃れようと伸ばされた腕を払いのけ、走る。

炎に包まれ、何人たりとも外部からの干渉を許さないアジト。そこに立つのはヘンリーとジグソー、そして“2人”に狙いを定めたパニッシャーの3人だけ。ここで、全て終わらせてやる。

狂気に支配された父に恐怖心を覚えたヘンリーは1人、炎に包まれた倉庫を駆け上がる。
ジグソーが迫り、逃げ場を失ったヘンリーに駆け付けたのは、本音をぶつけることができる唯一の友。
「お前らのくだらん親子喧嘩は終わりだ。てめえの死に場所にしちゃあ上出来じゃないか」
【押し付けられた愛情と払いのける勇気】

ノーマン・オズボーン。ザ・フッド。リーバーマン。ヘルズガード。ダケン。そしてジグソー。これまで続いてきた戦いが遂に終わりを迎える。思えばこれまでパニッシャーが戦ってきたヴィランは、みんな家族を失い、または裏切られ、それを取り戻そうと足搔いてきた者たち。そんな彼らが“家族を手にかけた”パニッシャーの前に立ちはだかるのは当然の形だったと言えるだろう。

ヘンリーの裏切りを知りながらも、息子を愛し、護ることを決めていたジグソーは相棒のスチュアートを惨殺。息子の前で相棒を撃ち殺した男の口元には笑みが浮かんでいた。銃を片手に持って逃げ道を塞ぎ、ナイフを握る手を振り上げ、躊躇なく息子に向けて振り下ろすジグソーの姿は正気のそれではない。ビリー・ルッソは確かにヘンリーに父親として愛情を注いだのかもしれない。しかし、ジグソーと化した父親が息子に求めたのは、服従と忠誠だ。注いできた愛情はいつしか歪み、息子からの反発を招き、その反発を抑えこもうと更に愛情を注ぎこもうとする。これで息子はより自分に近づく。もう逃がしはしない。当のヘンリーがどう思っているかなどは、ジグソーには関係ない。全ては息子のため、自分のため、そして憎き宿敵を打倒するためなのだ。

この自らのエゴのために、家族の尊厳を踏み躙る行為は(形は違えど)パニッシャーのそれと違っているようでいて、その実よく似ていると言えると思う。フランクとビリーは家族の尊厳を、意思を殺した。フランクはパニッシャーとして歩んだ道のりを否定することを拒み、家族の意思を聞く間もなく焼き殺した。対するジグソーはヘンリーの訴えを聞こうとせず、拳を振り下ろした。2人とも人間としては最低の部類だろう。しかし、同時に2人が父親であることは揺るがない事実だ。フランクは子供たちを殺したマフィアに復讐を果たし、ビリーはヘンリーを護ろうとした。

2人で違う点を挙げるのなら、息子たちに己のエゴを押し付けたことを悔いているかどうかだろう。フランクは妻子が殺されたあの日から、自らの手で悪魔の力で蘇った妻子を殺したあの日から、ずっと後悔に苛まれてきた。その後悔は家族を護ることが出来なかった無力感と罪悪感が齎すものであり、やがてその感情は妻子を奪った者たちへの怒りと憎悪に変わる。だが、いくら悪党共を殺しても妻子は帰ってこない。たとえ帰ってくるとしても、パニッシャーとして歩んできた自らの業が許さない。その葛藤は、フランクが見る悪夢となって、フランク自身を苦しめてきた。

一方でビリーはそういった後悔や罪悪感とは無縁な怒りを抱えていた。ビリーにあるのは只々、己のプライドと人生を奪ったフランクへの復讐心だけだ。その復讐を果たせるのなら愛する息子をも利用する。そのためなら自分に向けられた憎悪をも利用して、息子を優秀なハッカーへと育て上げることも厭わない。その違いを事もなげに言いのけるジグソーに怒りを爆発させたパニッシャーは、激情のままに飛びかかる。

ルール無用の残虐ファイトの応酬を繰り広げるパニッシャーとジグソー。
殺意の籠った一撃はまるで、てめえの存在が目障りなんだと言っているようだ。

パニッシャーの猛攻を受けながらも、仕切りにヘンリーのことを引き合いに出してパニッシャーの戦意を削ごうとするジグソー。「てめえは自分のガキすら護ることもできない。俺はお前とは違う!」しかし、ジグソーの逆襲を受けるパニッシャーにも、そして当のヘンリーにも、その発言がジグソーの独り善がりだということは分かっていた。

ヘンリーは危機に陥ったジグソーを庇い、助けようとした。あれだけ憎み、恐れた相手でも心のどこかでは未だにビリーを父親として慕っているのだ。だが、ジグソーはそんなヘンリーの想いを踏み躙った。パニッシャーへの復讐心に囚われ過ぎたジグソーは、息子が差し伸べた手を無視し、復讐を完遂しようとする。パニッシャーに惑わされた根性を叩き直してやる、そう宣う彼の姿にヘンリーは決心する。

パニッシャーが放ったグレネードの爆発で倉庫は崩壊寸前。崩落に巻き込まれかけ、助けを求めるヘンリーを払いのけ、パニッシャーへの攻撃を続行するジグソー。
「どっちに着くか、いい加減選べ!ヘンリー」
【Step Up】

あくまでも己のエゴを押し付けることを止めないジグソー。その行動は己に向けて複雑な感情を向けるヘンリーを想う感情と、そんなヘンリーに慕われている憎きパニッシャーへの嫉妬が混ざったが故の行動だろう。事あるごとにフランクが家族を守れなかったこと、自分はパニッシャーとは違うと言い続けていることが証拠ではないだろうか。

だが、一方通行の想いというのは実を結ばないものだ。ヘンリーはジグソーの暴威に襲われる友を救うべく、面と向かって父に反旗を翻したのだ。己の身を護るためにでも、父親への復讐のためでもなく、ただ友を助けるために。息子が自身の手から離れたことを漸く認めたジグソーは、息子が選んだ道を尊重し、炎の中に消えるのだった。

息子の選択を見届けた父親は、救いの手を払い、炎の中に消えた。
爆発寸前のアジトからギリギリでヘンリーを救い出したパニッシャー。これで、全部終わったのだ。

炎に包まれ、崩落していくアジトを眺め、物思いに耽るパニッシャー。そんな彼にヘンリーが語りかけるが、パニッシャーは以前と同じく突き放す。二度と俺の前に現れるな、と。次に会ったら殺す、と。静かにしかし激しい殺意を乗せた眼光はパニッシャーの言葉が本気であることを物語っている。こうなってはヘンリーには黙って立ち去ることしかできないだろう。

だが、これでいい。ヘンリー・ルッソは選んだ。ジグソーの手を払いのけた今、もうパニッシャーに与する理由はない。ならば自分も“友”の選択を尊重するべきだろう。それが“父親”が“息子”にできる最後の仕事だろう。自分の元を去るヘンリーを見送るフランクの表情は穏やかだった。

じゃあな。
もうこの戦場には戻ってくるなよ。

 

ダーク・レインから始まり、パニッシャーの死そして再生、家族のしがらみを断つ。悪党とのたった1人で始めた戦争が、宿敵の息子を相棒に迎えて始まったこのシリーズ。パニッシャーが繰り広げる残虐ファイトに目を惹かれるのと同時に、一方でフランク・キャッスルが元来抱えてきた家族への贖罪の意思にもフォーカスが置かれたこのシリーズは、後々のパニッシャー誌に深い影響を与えたことだろう。

何物も寄せ付けない冷徹な心を持っているように振る舞いながらも、仲間ができることに人知れず喜ぶ。突き放しながらも、頼りにしてしまう。そして絶えることのない妻子を殺害した「自身を含めた」悪党への怒り。

パニッシャーの往く道は次のステージへ。その道は常に妻子の血に濡れているのだ。