[アメコミ]LAGIAの趣味部屋[アメトイ]

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アメコミ:PUNISHER(2022)#12

フランクが犯した「罪」を知ったマリアは、夫を銃撃した。

その一撃はフランク・キャッスルの目を覚まさせること、そして彼自身が目を背けていた己の業に気付かせることになる…。

 

 

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【あらすじ】

仕事を終え、帰路に着こうとするフランクの前に立ちはだかったアベンジャーズ。ヒーローたちは皆一様にフランクの目を覚まさせようと拳を向けた。だが、「家」で待つ妻の元へ一刻も早く戻りたいフランクには彼らの言葉は届かない。

超人たちとの戦いの末に、疲労困憊なフランクは這う這うの体でアベンジャーズの追跡を振り切る。漸く家に帰れた。マリアにそう告げるフランクだが、そんなフランクに冷たい視線を向けるだけでなく銃撃してしまう。彼女はフランクが自分たちの「死」を建て前に私刑を行っていたことを知ってしまったのだ。

マリアは何処かに姿を消した。残されたフランクは夥しい量の血を流し、力なく倒れるだけ。そんな王に駆け寄るニンジャたちだが、司祭だけはフランクに対して怒りを爆発させる。

「最後の最後で計画を台無しにしてくれたねぇ」ザ・ハンドの王に君臨しているにも関わらず、情に流されて無様な姿を曝す男などザ・ハンドにはいらない。

「神」に引導を渡した銃弾で、今度はお前があの世に送られる番だ。

【PUNISHER No More】

これまでどんなに辛い目に会おうとも、どんなに死ぬような思いをしようとも決して膝を付くことはなかったフランク・キャッスル。そんな男がマリアの放った2発の銃弾で瀕死の重傷を負ってしまった。勿論、銃弾の当たり所が悪ければ即死することもざらにあるのだからフランクが倒れるのは無理もない。それに加えてマリアが持ち出した銃は、アレスとの決着をつけた銃。神殺しの銃弾を受ければ、邪神の加護を受けているフランクにはまさに天敵と言える代物だ。

だが、それ以上にフランクにダメージを負わせたのは、マリアの悲しみと怒りに満ちた叫びの方だろう。フランクはマリアに自分がパニッシャーとなった理由を教えなかった。知ればきっと、彼女は自分から去っていくことが分かっていたから。フランクはマリアに子供たちを返さなかった。生きている者との幸せを噛みしめるには、それ相応の「死」を傍で感じる必要があったから。

自分が間違っていることはフランクにも分かっていた筈だ。分かっていながらも、外法を以て蘇った妻との生活を選んだ。それはパニッシャーとして突き進んだロードも大事だが、同時にフランクが家族を大事にする夫「だった」ことを痛感させる(いい夫を演じられていたかは疑問だが)。そんな彼の思いを司祭は否定する。お前はただの人殺し、愛する者と過ごす普通の生活など送れる筈がない、お前は「イレギュラー」なのだから、と。そんなイレギュラーと蔑む男を欲したのは何処のどいつだっけか、とツッコミを入れたくなるが司祭からすればそんな矛盾はどうでもいいのだ。兎にも角にも、倒れ伏している男に一発おみまいしてやらなければ腹の虫が収まらない。そんな焦燥にも近い黒い感情が後押しして、引き金を引く指に力が入る。

フランクを殺して、また次の「王」を探せばいい。何年でも何百年掛かってでもだ。それが「ビースト」に仕える者の使命。そんな使命なぞ潰してやる。

司祭の真意を知ったフランクは残り僅かな「ビースト」の炎を使って、司祭を炎に包む。パニッシャーの銃が悪を討つ。そして、これがフランクがパニッシャーとして打ち倒した最後の瞬間だ。意識を失うフランクの耳に追いついたヒーローたちが自分を呼ぶ声が木霊する…。

 

 

嵐のような夜が明けた。意識を取り戻したフランクはドクターストレンジの魔術で作られた手錠に繋がれ、彼のサンクタムの地下牢に閉じ込められていた。傷の手当がされているのはせめてもの情けか。だが、そんなことはフランクには関係のないこと。フランクにとって一番知りたいことは最愛の妻が何処へ消えたかだ。アベンジャーズはマリアが何処にいるか知っている筈。彼女に会わせてもらうためなら何だってしてやる。ヒーローたちのお小言もいくらでも聞いてやる。ストレンジに懇願する姿は、実に弱々しく縋る対象を欲する子供のよう。そんなフランクに現実を見せるかのように、彼の体内から摘出された2発の弾丸を渡すストレンジ。彼女はもう、お前の元には戻らない。

ストレンジの「カウンセリング」を皮切りにローガンとナターシャ、そしてマークが1人ずつ各々のやり方でフランクに歩み寄る。しかし、彼らの言葉は狂人には響かない。となれば、やはり狂人の考えを正すためには真の狂人をぶつけるしかないだろう。

マリアはアベンジャーズに保護されていた。ザ・ハンドのアジトを去った後、彼女はドクターストレンジの元で治療を受けていた。彼女を苦しめていた不完全な復活による障害もなくなり、これでもう彼女を縛るものは何もないのだ。ただ、あと一つやり残したことがある。夫にあの日のピクニックで告げることができなかった「別れ」を突きつけるために、マリアはフランクの元を訪ねてきたのだ。

フランクが思い描く「家族」はあの日に死に、フランクの前に立っているのはフランクの理想の「家族」ではない。自分はフランクに罪を自覚させるために生きる「死」、そうはっきりと告げるマリアにフランクは言い返すことはできず、ただただ黙って自分の元から去っていく妻を見送ることしかできない。フランクが誰よりも求めた「死」は一番身近な場所にいたのに、それに気付けなかった。マリアにとっての「生」である子供たちをパニッシャーとして何度も何度も奪い、その果てがこの様だ。

自身への怒りとやるせなさと、あらゆる負の感情を込めて誰もいなくなった地下牢で拳を叩きつけるフランク。そんなことをしても「死」は帰ってこない。ならばフランクが取れる手段は1つしかない。生き続けること。マリアが自分に対する「死」であるのなら、フランクはどんなことがあっても生きていかなければならない。家族の死、そしてフランクが生きることこそがパニッシャーの決して許されない「業」だったのだ。

こんな「業」を背負った者の生きることができる世界など、地上の何処を探してもない。だから、潔く地上から消えよう。“ここ”ではない何処かで生き続ける。妻が残していった「置き土産」に残っていた邪神の炎を使い、アベンジャーズから姿を消したフランク。アベンジャーズにはフランクの旅立ちを見送ることしかできなかった…。

パニッシャーが地上から姿を消し、世界は一時の平穏を得た。だが、争いの火種が完全に潰えた訳ではない。そして、大金と2つの「妊娠検査薬」を手にマリアもニューヨークを後にする。彼女の目から流れる涙の意味は…。

 

ジェイソン・アーロンがライターを務めた今シリーズは、パニッシャーの歴史に大きなターニングポイントを作り、同時に楔を打ち込んだ。元をたどれば今シリーズが刊行されたきっかけとなったのは、「義」を軽んじる者たちが己の暴力性を満たしたいがためにパニッシャーのシンボルマークを掲げたことを、マーベルが問題視したことにある。そのために大胆なデザインの変更を行っただけでなく、物語としてこの問題を取り入れることにした。

即ち、パニッシャーの全肯定と全否定。これまでのパニッシャーを肯定する戦いの神アレスと、今のパニッシャーを肯定するザ・ハンド、そして全てのパニッシャーを否定するマリア。3者の思惑が鎖となってパニッシャーとして戦おうとするフランクの身動きを封じていく。今号のカバーはそんなフランクを現しているかのよう。最後の敵として現れたアベンジャーズがフランクの人となりを知っている者たちで構成されていたことも考えると、徹底的にフランク・キャッスルを追い詰めようとするマーベルの気概が窺い知れる(流石自社のキャラクターに対してはドSなマーベルらしい)。

しかし、フランク・キャッスルとマリア・キャッスルの2人に与えられた新しいオリジンは、パニッシャーの物語に重厚感を与えることに一役買ってくれた。義憤に駆られた人殺し、血を見るのが大好きな人殺し。そのどちらもフランク・キャッスルの姿であり、そんなフランクをマリアの視点から描いてきたことは斬新な試みだったと管理人は思う。これまでのパニッシャー誌においてマリアと2人の子供たちは、パニッシャーが戦うための乱暴な言い方を言えば道具であり舞台装置でしかなかったのだから。そんな女がパニッシャーの所業を知った時にどうするか、そのアンサーが出されたのも興味深い。

フランク・キャッスルが地上から消える判断をしたのは、先述したパニッシャーの全肯定と全否定に基づく結果から。しかし、フランクが消えてもザ・ハンドの司祭は生き残っているのだから、まだまだ争いの火種は地上にいくらでも残っているのも確かなのだ。同時にパニッシャーが地上には必要であることを示しているように感じる。フランクが姿を消してから、新しいパニッシャーが現れたのもそれの証左だと思う。

 

 

 

地上ではない何処か。赤黒き異世界にて子供たちを引き連れて歩く男が1人。男は子供たちを守りながら、今日も生き続ける。