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アメコミ:スーペリア・スパイダーマン:ゴブリン・ネイション

SUPERIOR NO MORE

というわけで、今回は翻訳版スーペリア・スパイダーマン誌の5号「スーペリア・スパイダーマン:ゴブリン・ネイション」の解説だ。

「ワースト・エネミー」「トラブル・マインド」「ノー・エスケープ」そして「スーペリア・ヴェノム」、さらに「SUPERIOR CARNAGE」「TEAM UP」といったミニシリーズ、大型クロスオーバーイベント「スパイダーバース」。ニューヨークだけでなくマルチバースの広大な宇宙をも駆け回り、自らの使命を果たさんと戦い続けてきたオットー・オクタビアスことスーペリア・スパイダーマン。そんな彼の最後の戦いを描いたのが最終号となる「ゴブリン・ネイション」だ。

本誌も「ネセサリー・イービル/スーペリア・ヴェノム」と同様、ヴィレッジ・ブックスから翻訳化。オットーとアナ・マリアをはじめとした彼を取り巻く人々、グリーンゴブリンやホブゴブリンにジェイムソン市長、そしてピーター・パーカー。それぞれの思惑が複雑に絡み、先が読めない展開が続く様はスーペリア・スパイダーマンの最後を演出するのにぴったりだろう。

【あらすじ】

スーペリア・スパイダーマンが築き上げたニューヨークの監視者としての地位が揺らぐ事件が立て続けに起こった。シンビオートをその身に宿したことで暴走したことで、かねてよりスパイダーマンを監視していたアベンジャーズから「スパイダーマン/ピーター・パーカーの肉体に憑依している者は本当にピーター・パーカーなのか」と疑われてしまう。正体を知られることを恐れたオットーはアベンジャーズからの離脱を一方的に突きつける。孤高で傲慢な在り方がどんどん裏目に出てしまい、孤立していくオットー。

そんな彼に最大の危機がやってくる。この危機を退けた時、最後に立っているのはオットーか、それとも…。

グリーンゴブリンvsホブゴブリンのゴブリン対決。
オットーも気付いていなかったこの戦いの勝者はグリーンゴブリン。これでノーマンを邪魔する者はいなくなった。あとは“スパイダーマン”だけだ。
【OCTOPUS'GARDEN CLOSED】

ピーター・パーカーの肉体を手に入れ、そしてスパイダーマンの力の大きさと責任の重さを知ったオットーは宿敵ではなし得なかった偉業を成し遂げようとした。「親愛なる隣人」ではなく「優れた監視者」としての道を歩んだオットー。その道は過酷を極めたが、彼は持ち前の知性とネバーギブアップの精神で立ち塞がる障害を打ち倒し、突き進んできた。その傍らでオットーはピーター・パーカーの名で、自身の研究成果を世に送り出す企業をも起こした。自身の栄光ために、愛する女との幸せな未来を掴むために、理由はたくさんあるがオットーがここまで突き進んでこれた一番の理由は「スパイダーマン/ピーター・パーカー」を超えるためだろう。

ドクターオクトパスの名でヴィランとして活動していたオットーが最初に起こした犯罪計画を潰したのは他でもない憎き蜘蛛男。それ以降スパイダーマンとは何度も戦い、その度に敗北してきたオットーだが彼は決して諦めず、策を巡らせあの手この手で挑み続けた。自分こそが最も優れているという自負を持つオットーにとってピーター・パーカーの存在はまさに目の上のたんこぶ。自分の力でこの障害を排除することに拘った末に、彼は宿敵に勝利した。初めての勝利に満足したのも束の間、そこで知ったのは宿敵の偉大さだった。普通の悪役なら「そんなもの知ったことじゃねえ!」と一蹴するだろうがオットーは違う。スパイダーマンの背負っていたものを知ってしまったら、それ以上の“誇らしい成果“を築いてみせると躍起になるのがオットー・オクタビアスという男なのだ。故に彼はスーペリア・スパイダーマンとしてこれまで戦い続けてこれたのだ。

しかし、スパイダーマンというヒーローは何かと“不運”と縁がある。特に「大切な者ができたら、その者を失う」という展開は半ばお約束となっている。勿論オットーも例外ではなかった。彼が築いた成果をぶち壊す怨敵が現れたのだ。

グリーンゴブリンことノーマン・オズボーン。スパイダーマン最大の宿敵との呼び声も高い小鬼は、長い潜伏期間を経てニューヨークを支配するために水面下で行動を起こしてきた。オットーの放ったスパイダーボットの監視も潜り抜け、ホブゴブリン(ユーリック)やザ・ハンドのニンジャたちといったスーペリア・スパイダーマンの活躍によって地上に居場所を失った者たちを迎え入れて力を蓄えてきた彼は、オットーがスパイダーアイランドでスパイ騒動を鎮圧している隙に表舞台に姿を現したのだ。既に「スーペリア・スパイダーマン=オットー・オクタビアス」という事実を知っているオズボーンは「伝統」に基づき、オットーの大事なものを奪うためにスパイダーマンに戦いを挑んだ。アベンジャーズの後ろ盾も失い、私兵部隊の戦力もガタ落ちしていたオットーではノーマンの攻勢を止めることはできる筈もなかった。

スパイダーアイランドに向けて部下たちに攻撃命令を出すオズボーン。
これで目障りな蜘蛛は永遠にグッドナイry)

戦闘に入る直前、スーペリア・スパイダーマンの前に現れたグリーンゴブリンは、自分でもなし得なかった偉業(ピーター・パーカーの殺害)を称賛したうえで自らの右腕になれと誘いをかけた。しかし、オットーはオズボーンの申し出を断り、真っ向から対決する意思表示を行った。ヒーローとしてお前を倒す、これ以上貴様のために大事なものが傷付くのは御免だ、と。そんなオットーを嘲笑うかのようにオズボーンはオットーの“成果”を破壊して回る。お前がヒーローなんて笑わせるなと言わんばかりに。

戦力差は歴然、頼る相手もいない孤立無援でありながら「ヒーロー」として足掻くオットーに対し、潤沢な人員と武器の数と二重三重に張り巡らせた罠の数々で「ヴィラン」として非道を重ねるオズボーン。この2人の在り方を照らし合わせると、かつてドクターオクトパスとして活動していたオットーと、グリーンゴブリンとではヴィランの在り方がだいぶ異なることが分かる。同時に絶望に沈みながらも歯を食いしばり、打開策を打ち出そうとするオットーの様はまさに「スパイダーマン」のそれだ。2人の因縁はここでは詳しく明かされないが、取り敢えずゴブリンは外道ということが分かれば十分か()。

オットーを苦しめる。ただそれだけの理由でアナは誘拐され、ラメイズは命を落とした。
どれだけ力を振るおうが、ゴブリンには届かない…。

自分独りではオズボーンには勝てない。この事実はニューヨークの街並みを駆けるオットーの肩に重くのしかかる。それでもオットーは戦うことを止めなかった、最後まで諦めないのがオットーの信条だから。しかし、友が殺され、愛する女が攫われた時、オットーは苦悩の中ある決意を固める。ヒーローとしてヴィランと戦うのではく、自分の大事なものを救うために戦う。そのために捨てるものが多すぎたとしても、アナ・マリアが助かるのならば惜しくない。「スパイダーマン」はやはり、自分が認めた最高の宿敵にこそ相応しい。彼ならばアナも助けられる筈だ、と。

自分が築いたものが一瞬のうちに奪われ、残ったものも捨てなければならない。オットーに突きつけらた選択肢は実質一択しかない残酷なものだ。ピーター・パーカーの体をピーター本人に返して自分は消える。それはアナ・マリアと過ごした過去と彼女と築いていく未来を捨てることを意味する。彼女だけには生きていて欲しい、たとえ自分が彼女の横に立てないとしても。目に涙を浮かべながらも、アナのことをピーターに託すオットーの姿には涙を禁じ得ない。勿論ピーターの立場からすれば「自分の体で好き勝手やってきた癖に都合のいいこと言うな」となるが、これまでのオットーの活躍をそばで見てきたピーターはオットーの意思を継ぎ、ニューヨークを駆ける。目指すはグリーンゴブリンが待つアルケマックス本社ビル。アナを救い、奴を倒して全部終わらせる。それが最高の宿敵から託された願いだから。

神経スキャナーを起動し、ピーターに体を返す準備にかかるオットー。
オットーは決して孤立無援の1人ぼっちではなかった。

悪党であるオットーがスパイダーマンになる、という荒唐無稽な展開が話題を呼び、彼なりのやり方でスパイダーマンを超えようと奮闘する様が好評を博した「スーペリア・スパイダーマン」。その人気は初登場してから何年も経つのに衰えることはなく、2019年にはオットーが再びスーペリア・スパイダーマンとして活動する様子が描かれ、そして2024年に三度スーペリア・スパイダーマンが復活するというのだから底が知れない。

スパイダーマンとして活動してきたことでオットーの精神も変化し、復活後も単なるヴィランとは言えない独自の立ち位置を獲得(このあたりは同じく復活して以降ヒーロー路線にシフトしたヴェノムとのすみ分けが目的か)。スパイダーマンを超えるという目的も変わってはおらず、今日も今日とてオットーはピーターに挑み続ける。

自分が認めた“誰よりも優れた”宿敵に完全勝利するその日まで。