自らの意思で定めた道をただひたすらに突き進む。
血反吐を吐こうとも、止まる訳にはいかない。
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【あらすじ】
パニッシャーがザ・ハンドに与した理由。それは偏に失った家族を取り戻すためだった。ザ・ハンドの呪術を用いて蘇った妻との幸せな生活を過ごす傍ら、これまでと同じく私刑執行人としての日常を送るフランク。
その有り様は歪に見えるが…。
【Scorcher】
ザ・ハンドの手で蘇ったマリア・キャッスル。彼女はフランクと過ごす時間を楽しんでいた。長い戦争から帰ってきた愛する夫が傍にいる。マリアにとっては間違いなく幸福だっただろう。しかし、幸せを感じている反面で彼女は怯えていた。毎晩見る悪夢。夢の内容は漠然としているが、確かなのは自分が毎日のように撃ち殺されること。この夢は現実に起きていたことなのではないか。自分の身体に残る“傷跡”がそれを物語っているようだと、マリアは感じていた。
マリアが見る悪夢は夢や幻ではない。全て現実に起こったことだ。にも関わらずマリアにはそれが現実だという認識がない。そればかりか息子と娘が何処にいるのかも、自分が何処にいるのかも分かっていないようだ。寝ても覚めても夢の中に居て、何年もの間取り残されていたような感覚にあるマリアにフランクは言う、愛している、と。
事は順調だ。マリアに仕掛けた術は上手く機能している。フランクは自分が今や悪党共を裁く非情の処刑人であること、そしてマリアたちがどうなったかを伝えていない。そればかりか、妻をザ・ハンドのアジトの一室に閉じ込めて外界に意識を向けないように細工していたのだ。全ては妻のため。辛い記憶を思い出す必要などない。ここにいれば安全なのだから。
自分のエゴを他者に強いる。それはかつてパニッシャーが相対してきたヴィランたちが家族にやってきた愚行だ。これだけ見ればフランクは変わってしまったと思ってしまう。自らの信念を押し通すために他者の尊厳を踏み躙るような“理不尽”をフランクは最も憎んだ。故にたった一人で悪との“戦争”を起こした。そんな男が自分が憎んだ悪と同じ轍を踏んでしまっている。こんなに皮肉で痛快なことはないだろう。
悪党と手を組み、妻に自分の意思に従うように強いる。このシリーズで描かれたパニッシャー像は、これまでのパニッシャーを全否定するものだ。武器やシンボルマークだけでなく、己の在り方まで変えてしまったのかと困惑した読者も多かっただろう(少なくとも管理人は困惑した)。だが、その一方で新しいオリジンを加えられた。それはフランク・キャッスルという男の本質は幼少期の頃から変わっていない、というもの。
子供の頃のフランクは“普通”の生活に馴染めず、常に自分の殻に閉じこもっていた。親や学校の教師が差し伸べた手を掴もうとはせず、己の内面に潜む暴力的な一面に目を向けていた少年。その様はまるで大人になっても変わっていないように思える。ただ、内面を曝け出すようになっただけ、だ。
この付け加えられたオリジンには大きな意味がある。フランク・キャッスルが情け容赦しない非情の男に変貌したのは、彼が“戦争”のために歪んだためだった筈だ。戦争に行かなかればフランクは心優しい家族の大黒柱となっていた筈だ。その通説を、このシリーズでは根本的に覆した。フランクは子供の頃から、既にパニッシャーだったのだ。
これまでパニッシャーが築き上げてきたものを全否定し、その本質を見つめ直す。パニッシャーが往く道はこれまでの中で最も過酷で険しいものになるだろう。