大いなる支配が始まる!
ということで、今回は翻訳版スーペリア・スパイダーマン誌の3号「ノー・エスケープ」の解説だ。ノー・エスケープは「ワースト・エネミー」「トラブル・マインド」から続く続編であり、スーペリア・スパイダーマンことドクターオクトパスが街の平和のためにある行動を起こす。
ワースト・エネミー、トラブル・マインドの解説はこちらから↓
前号にて遂に脳内からピーター・パーカーの記憶を全て消去し、宿敵に完全勝利を果たしたオットー・オクタビアス。もはや自分の邪魔をする者は何者もいないと確信したオットーは街の守護者スーペリア・スパイダーマンとしての活動にのめり込んでいく。
ピーター・パーカーの記憶はピーターを演じるのには非常に有効的だった。しかし、その記憶があるためにオットー自身がピーター・パーカーという名の牢獄に囚われているようだった。ピーターがこれまで積み上げてきた行為が全てオットーにも降りかかる、それはオットーには耐えがたい屈辱だった。牢獄に繋がれるのはもう沢山だ。
憤りから解放され躍進するオットーが訪れたのは凶悪なヴィランたちが収監されている刑務所、ラフト。
かつて死に瀕していた自分も収容されていたこの地に再び足を踏み入れる。
そこではスパイダースレイヤーことアリステア・スマイスの死刑が執り行われようとしていた。スマイスは過去にスパイダーマンと何度も戦い、そしてオットーらヴィランたちともしのぎを削り合った因縁がある男だ。そんな彼はジェイムソン市長の妻を殺害したことで遂に逮捕され刑が執行されるが、スマイスが脱走する懸念があった。そう考えるジェイムソンは忌み嫌うスパイダーマンを応援として呼び寄せたのだ。見下す相手にいいように使われるのは気に食わないが、かつての商売敵が死ぬ様は見たい。オットーがジェイムソンの要請に応じる理由が何ともオットーらしい。
そして案の定というかお約束というか、スマイスは脱走を敢行。ラフトに収監されていたスコーピオンやブーメラン、ヴァルチャーらを操って刑務所内をパニック状態にさせる。この危機にスーペリア・スパイダーマンが立ち上がる。ただし、それは人々を守るためではなく、スマイスを抹殺するためだ。ヒーローには似つかわしくない非情とも取れる判断だが、パニックの根源であるスマイスを始末するのが一番手っ取り早い。人々を守ることを優先してきたピーターとの違いがよく分かる。
凶悪な犯罪者がそう簡単に心替えをすることはない。許しを請うていたスマイスも、スパイダーマンに叩きのめされたスコーピオンたちも変わらなかった。オットーもまた過去には散々悪行を重ねてきたヴィラン、彼はヒーローとしては不適格かもしれない。しかし、得た力の意味と責任の重さを知れば変わるのかもしれない。
獣の本能から自我を取り戻したリザードことカート・コナーズの助けもありラフトの混乱の鎮圧に成功するオットー。スマイスの最後の悪あがきも、特大の皮肉を込めてはね返し無効化。スパイダースレイヤーは結局の所、“本物の”スパイダーも“偽物の”スパイダーも倒すことはできなかったのだった。
スマイスも、スマイスの手によって殺された者もオットーからすれば皆揃って愚か者だ。人の業績とは本人の行動の積みであり、誇るべき偉業も恥ずべき失態も本人の責任、そう語るオットーはある決意を固めていた。ドクターオクトパス、スーペリア・スパイダーマン、これらの姿で活動してきた業績は無駄にはできない。しかし、そのためにピーター・パーカーの業績を全て消し去った。大いなる力には大いなる責任が伴う、かつての宿敵が語った言葉がオットーの背中を押す。
スパイダーマンとしての責任を果たす。オットーにとっての責任、それは街の完全な支配に基づく平和を作り上げること。自身を絶対的な監視者とし、ヴィランたちを街から残さず排除する。ジェイムソンから(脅迫して)譲渡されたラフトを自身の活動の本拠地とし、腕利きの軍人たちを雇って私設部隊スパイダーアーミーを設立。巨大ロボット“アラクノーツ”や大量のスパイダーボッツを投入し、自身もスーツをアップグレード。4本のスパイダーアームを装備し、自身の野望の障害となる者たちの抹殺に乗り出す。平和の実現、それを誰もやらないなら私がやる。
責任を果たすべく邁進するオットー。しかし、彼のその急進的で傲慢な行動がピーターをよく知る周囲の人々からの不信を買ってしまい、スーペリア・スパイダーマンの正体を暴こうとする者まで現れ始める。そして街に巣食うヴィランたちを悉く打ち倒して生じた勢力図の空白部分、そこにオットーの目が届かない地下に隠れて力を蓄え続けるグリーンゴブリンの手が広がる。
周囲の目を解せず前進するオットー。彼の行動力は凄まじいが、その傲慢さがスーペリア・スパイダーマンの新たな戦いの始まりを告げようとしていた。