私の勝ちだ、パーカー!
ということで、今回は翻訳版スーペリア・スパイダーマン誌の1号「ワースト・エネミー」の解説だ。
まず、「スーペリア・スパイダーマン」についてから解説する。スパイダーマンはプライムアースに存在する所謂本家本元であるスパイダーマン以外にも多くのスパイダーマンが存在する。このスーペリア・スパイダーマンもその内のスパイダーたちの内の1人であり、同時にそのスパイダーたちには無い特徴を持つ。
スーペリア・スパイダーマンの正体は、スパイダーマンのライバルであり宿敵であるドクターオクトパスことオットー・オクタビアス。瀕死の重体となり生死を彷徨うオットーが最後に打って出た起死回生の一手、精神交換をスパイダーマンに仕掛け、彼の肉体を乗っ取ったのだ。
このありそうでなかった驚きの展開は当時の読者を驚かせたそうだ。スーペリア・スパイダーマンそのものの初出は全スパイダーマンたちが登場するクロスオーバーイベント「スパイダーバース」で、そこで正体が予め触れられていたのだが、まさかの方法でスパイダーマンとなっていたのだ。しかも彼はプライムアースの住人、つまり正史のスパイダーマンなのだ。
悪党であるドクターオクトパスがヒーローであるスパイダーマンに勝った。
オットーとしてもイレギュラーな勝利となったが、話はここで終わらない。ボロボロであるドクターオクトパスの肉体を酷使したピーター・パーカーが身体を奪い返そうと躍起になるからだ。ハイドロマンやスコーピオンといった嘗ての敵たちと手を組んで“スパイダーマン”を襲うピーター。しかし、“スパイダーマン”であるオットーは彼らの攻撃を持ち前の頭脳と冷酷さ、蜘蛛由来の怪力で退けてしまう。ピーターの頼みの綱だった再度の精神交換も失敗に終わり、肉体は遂に限界を迎える。
だが、ここで精神交換の影響かピーターの記憶がオットーに植え付けられるアクシデントが発生する。オットーも予期していなかった事態に混乱、ピーターがこれまで体験してきた大切な人々との出会いや別れ、ヴィランとの壮絶な戦いの記憶を自分のことのように体験してしまう。
大いなる力には大いなる責任が伴う、スパイダーマンにとっては何よりも重要な意味を持つ言葉だ。その言葉の重さを今度はオットーが背負わなければならない。彼はスパイダーマンとなったのだから。
命の重さを知ったオットーには、今までのようにヴィランとして振る舞うことはもうできない。ピーターは肉体を取り戻すことは失敗したが、彼の意志を受け継ぐ者は現れた。スパイダーマンよりも“優れた”スパイダーマン、スーペリア・スパイダーマンの誕生だ。
と、厚顔無恥にも程があると捉え変えない展開でヒーローとなったドックオク。
彼はスパイダーマンがやらなかった、思い付かなかった方法で次々と街にのさばる悪党たちを追い詰め、捕らえていく。
警察との連携を強め、街や住人の様子を監視するオクトボットを街中にばらまいてヴィランの動向を探ったり、アベンジャーズである自分の立場を利用してジェイムソンをコケにしたり、悪党は容赦なく叩きのめしたり(子供などの例外は除く)と、彼なりに大いなる責任を果たそうと行動を起こす。
元がヴィランで尊大な男だったこともあり、ピーター・パーカーの顔で悪態を付いたり罵ったりと以前のピーター・パーカーを知るMJやカーリーたちからは怪訝な目で見られてしまうが、スーペリア・スパイダーマンは街の守護者としての地位を確立していく。
ヒーロー活動を効率化し、プライベートの時間も確保するというピーターではできなかったこともオットーならこなせてしまう。彼はやはりスーペリアだ。だが、そんな彼の脳内に残るピーター・パーカーの残留思念が肉体を取り戻そうと画策していたり、グリーンゴブリンの怪しい動きも見えたり…。
前途多難なスーペリアスパイダーマンが己の威信とプライドにかけて、困難を乗り越えていく姿がたまらないのだ。