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映画:ワカンダ・フォーエバー/ブラックパンサー 感想

この記事は映画「ワカンダ・フォーエバー/ブラックパンサー」のネタバレを含みます!ネタバレを踏みたくない人はブラウザバック推奨です!

 

 

 

想いは、受け継がれる。

というわけで、今回は先日公開された実写映画「ワカンダ・フォーエバー/ブラックパンサー」の感想だ。筆者は公開当日の仕事帰りに晩飯を食わずに新宿までダッシュで向かい、フラフラの状態で観に行った(IMAXてやっぱりちょっと酔う…)。

公開まで殆どの前情報を入れずに新鮮な気持ちで観たが、この作品は素晴らしかった。近年のMCU作品の中でもトップクラスの完成度だと思う。映画を観てあまり泣くタイプではない筆者だが、オープニングの時点で目頭が熱くなったのを感じたものだ。

知っての通り、前作「ブラックパンサー」や「アベンジャーズ:インフィニティウォー」「アベンジャーズ:エンドゲーム」でティ・チャラ/ブラックパンサーを演じたチャドウィック・ボーズマンは2020年に亡くなっている。本作は彼の突然の訃報を受けて、大幅にストーリーが変った作品だ。何せ主役を演じた名優がもうこの世にいないのだから。そこで新たに主役に抜擢されたのはレティ―シャ・ライトが演じるティ・チャラの妹、シュリ。兄を失った悲しみに彼女がどう向き合い、乗り越えるのかが本作品のメインテーマだと感じた。

 

オープニングから描かれるティ・チャラの病死だが、この時シュリは以前キルモンガーことウンジャダガに全て燃やされたブラックパンサーの力の源である合成ハーブを科学技術を駆使して再現、それを兄に投与することで助けようと奮闘していた。結果は完成度が低い合成ハーブしか作れず、兄を助けることができなかった。

それからのシュリは兄の死から目を背け、研究開発に没頭。母ラモンダ女王やエムバクら周囲の人々は思い思いにティ・チャラの死から立ち直ろうとするが、シュリにはそれができない。自分を責めるシュリだが、遂には兄を奪った“世界”にも怒りの目を向けてしまうようになる。これはマズイと思ってしまうが、同時に身近にいる大切な者が突然亡くなった時、自分の手で救えなかった時はやり場のない怒りと悲しみを世界にぶつけたくなるのも分かってしまう。

そんなシュリの前に現れたのが海底王国タロカンの王、ククルカンことネイモア。

ネイモアもまた自分たちの王国に牙を向ける地上の諸外国に敵意を向け、滅ぼそうと躍起になっていた。自身や王国の成り立ちを話し、自分たちは似た者同士だ、共に世界を燃やしてやろうとシュリに近付くネイモアだが、シュリはネイモアの提案を拒否。

ネイモアの考えも理解できるが、だからといって地上を攻めることはできない。それはワカンダの、ブラックパンサーのやるべきことではない。そう答えるシュリだが、本心ではどうなのか。そもそもシュリが燃やしたい世界と、ネイモアが燃やしたい世界は同じものなのか。そこにズレがあったから、シュリはネイモアの手を取ることはできなかったのだろう。

ネイモアが燃やしたい世界は、地上での弱者を虐げ強者がのさばる弱肉強食の世界。それはかつてのキルモンガーの理想とよく似ている。

一方のシュリが燃やしたい世界は、自分自身。世界が兄を奪ったと言うが、本心では兄を救えなかった己の非力、無力さを嘆く激しい怒りからきていたのだろう。自身を追い詰め、仇と定めたモノに執着する様はありし日の兄によく似ている。

すれ違った2人の溝は広がるばかりで、ネイモアの手で母までもが失うことになってしまったシュリは執念の末に合成ハーブを完成させ、自身を超人化させる。ネイモアへの激しい憎悪を滾らせながら。

半ば暴走状態の彼女を止められる者は誰もいない。そんな彼女の前に現れたのはキルモンガー、ウンジャダガ。シュリにとっては(忌々しいだろうが)従兄弟であるウンジャダガは彼女の考えを嘲笑する。ネイモアへの復讐がお前が本当にやりたいことか、と問いかけながら。

兄ほど気高くもない、自分ほど苛烈にはなれないし父親のような偽善者にもなれない。お前は何者になりたいのか。

終盤、ネイモアを追い詰めトドメを刺す直前、シュリの前に今度はラモンダが現れてこう言う、自分が何者なのかを証明しろ、と。かつて母が兄に向かって叫んだ言葉だ。

自分とは何者なのか。俺はこういう男だとか、私はこういう女だとハッキリと宣言できる者は少ないだろう。筆者もまだまだできない状態だ。

そんな中、復讐心を捨て、兄の死を乗り越える決心を固め「ワカンダの守護者ブラックパンサー」を名乗るシュリの姿は非常に眩しく見えた。

いなくなった者はもう二度と帰ってこない。それでも残った者が歩みを止めることはできない。逝ってしまった者の残した者への想いは無くならないから。

兄の死に漸く目を向けることができるようになったシュリの涙と笑顔が俺の涙腺を刺激するんだ…。

 

本作は最初から最後まで一環として故チャドウィック・ボーズマンへの敬意と哀悼の意思を感じさせる素晴らしい作品だった。「シビルウォー」や「ブラックパンサー」と過去作へのオマージュを感じさせ、エムバクやオコエ、ロス捜査官たちの意外な一面を知れたり、ネイモアやリリ・ウィリアムズといった魅力的な新キャラクターたちも登場と見所も非常に多い。キルモンガーの再登場にも驚いたものだ。

…ぶっちゃけ今まで影が薄かったラモンダにスポットが当たったのが一番嬉しかったかも(笑)。

新型コロナウイルスによるパンデミックや撮影中の事故など不運に見舞われた本作だったが、きっとチャドウィック・ボーズマンも喜んでいるかもしれない。