[アメコミ]LAGIAの趣味部屋[アメトイ]

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アメコミ:スパイダーマン:クローン・コンスピラシー

“死”を克服する禁断のテクノロジー

その力で、過去に亡くなった人々を取り戻せるとしたら…。

 

 

 

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[あらすじ]

養父ジェイが亡くなった。救えた筈の命を、大切な者の命を「正しいことをしたい」という自分のエゴのために殺してしまった。自責の念に駆られるピーターには、お前さえニューUの治療を受け入れていれば父が死ぬことはなかったと憤るジェイムソンからの罵倒にも、力なく受け入れる他なかった。

しかし、ピーターの不安が晴れることはない。ニューUの実態を突き止めなければならない。アナマリアに全てを話したピーターは、彼女と共にジェリー・サルテレスの自宅へと向かう。そこで待っていたのはジェリーが突然苦しみだし、ニューUの関係者を名乗る者たちが「治療」と称してジェリーを連れ去った事実だった。

やはりニューUには何かがある。スパイダーマンへと姿を変えたピーターは、ニューUの本社へ潜入を試みるが…。

ニューUもまた、数多の企業と同じくパーカー・インダストリーズと提携を望んでいた。内外問わず、パーカー・インダストリーズは敵だらけで参るね。

[クローンの野望]

ジェイの葬儀からの幕開けとなり陰鬱の雰囲気が漂う中、次々と明らかになっていくニューU、そして指導者であるジャッカルの正体。「クローン・コンスピラシー」は前日談である「ビフォア・デッド・ノー・モア」の続編であり、第4期アメイジングスパイダーマン誌の1号から登場してきた「深紅の男」ことジャッカルが大ボスとして立ちはだかる大型イベントだ。クロスオーバーイベントではないので規模は少ないものの、ウェブ・ウォーリアーをはじめとしたヒーローや懐かしのヴィランたちが登場したり、プロウラーを主役に描いたタイイン誌が刊行されたりとマーベルは精力的に本シリーズを推していた。

その理由の1つには、本シリーズが「クローン・サーガ」の系譜を継いだ作品であることが大きいだろう。クローン・サーガは1990年代に行われた大型イベントで、ファンから賛否両論の評価を受けた、というかぶっちゃけ「悪名高い」で通ったシリーズ。スカーレット・スパイダーやジャッカルといったスパイダーマン誌では欠かせないキャラクターを世に送り出した功績はあるものの、管理人的にはストーリー展開が盛大に拗れたのは頂けない。そういった背景があるだけに、クローン・コンスピラシーにも最初は良い印象は持っていなかった。

しかし、読んでみて本シリーズはクローン・サーガの焼き直しではなく、一歩先を進んだストーリーだったと思う。

読者のみんなはクローンと言えば、全く同じ姿を持つ別人というイメージを思い浮かぶだろう。管理人もそうだ。しかし、本シリーズで登場するクローンは一味違う。彼らは全員、死んだ時の記憶を持つ「黄泉がえり」を果たした本人なのだから。ニューUに潜入したピーターが目にしたのは、カプセルに収められたジェリー・サルテレスの身体とジャッカルことマイルス・ウォーレン。更には死んだ筈のグウェン・ステイシーやオットー・オクタビアスが生前と変わらない姿で、ピーターの到着を待っていたのだから、ピーターじゃなくても頭を抱えたくもなるだろう。

ドクターオクトパスに捕らえられたピーターは、ジャッカルによって解放され、地下へと案内される。そこにはスパイダーマンとの戦いの中で命を落としてきたヴィランたちが勢ぞろいしていた。ジャック・オー・ランタンにローズ、3代目グリーンゴブリンことバートン・ハミルトン、みんなジャッカルの手で「黄泉がえった」連中ばかりだ。悪夢の光景に絶句するピーターにジャッカルは自らの偉業を称える。

ヴィランたちだけでなく、プロウラーやステイシー警部といったピーターにとって大切な者たちまでも黄泉がえらせたジャッカル。誰もが穏やかに暮らし、第2の人生をやり直す世界を見せることで、「誰も死なせない」というピーターの願いを叶えたと豪語するジャッカル。だが、ピーターには彼の行動を受け入れることはできなかった。

クローンは長く生きることができない。寿命が近づくと生命機能を維持できず、組織崩壊を起こし、最後は砂と化す。それを抑えるためには特殊な薬を毎日服用しなければならない。そんな不完全なモノが果たして正しく人間と言えるのか、少なくともピーターには「劣化コピー」としか思えない。ジェリーの身体が崩壊したのも、彼が生前の記憶を持つクローンだからだ。

こんなものが治療なものか、お前は死者の尊厳を冒涜しているだけだと怒りを露わにするピーター。そんな彼にジャッカルはあくまでも協力を求め続ける。ニューUとパーカー・インダストリーズが手を組むことで、世界中の死者が黄泉がえり、誰も悲しまない幸福な世界を作ることができるのだ。

クローンの欠点もいずれ改良されると力説するジャッカルだが、ピーターと手を組もうとする目的は別にある。ピーターの人となりを知るジャッカルは、彼の弱みに付け込みながら言葉巧みに誘導しようとする。この狡猾な「アヌビス」の野望の全貌と彼の正体は、本誌を購入して確認して欲しい。

[死者の記憶]

本シリーズで登場するクローンたちは全員例外なく、生前の記憶を持つ者たちだ。当然命を落とす直前の記憶も持っている。忘れたくとも忘れられない死の恐怖。クローンたちの多くは再び黄泉の世界に行くことを恐れ、ジャッカルの庇護下にいることを選んだ。自分たちが生きるためには薬が必要なのだから、選択の余地はないのは当然だろう。

彼らの中で特筆すべきなのはグウェン・ステイシーの記憶だろう。

アメイジングスパイダーマン誌にて、最初のヒロインとして登場したグウェン。ピーターと交際していた彼女は、グリーンゴブリンに捕らえられ、スパイダーマンを誘き出すための人質として利用された。その戦いの中でグウェンは命を落とした。ピーターが伸ばした救いの糸が、結果的に彼女の命を奪ったのだ。この出来事はピーターに暗い影を落とし、一時は“親愛なる隣人”を辞めてしまった程のショックを与えた。リアルタイムで読んでいた読者に与えた衝撃は大きかったことだろう。

グウェンは気絶したまま命を落としたのだと思われていたが、「クローン・コンスピラシー」では実は彼女は意識を取り戻した状態で死んだことが明かされた。所謂後付け設定だが、ここで描かれたグウェンの心情が中々に衝撃的だった。

彼女は戦う能力を持たない一般人であり、スパイダーマンの正体を知らない。そして、スパイダーマンヴィランとの戦いの中で実父であるステイシー警部の命を奪われた過去を持つ。戦いの中で明かされたスパイダーマンの正体に、彼女は絶望の中で命を落とす様が中々にキツイ。

そんな過去を持つ彼女の行動が、本シリーズの「肝」の1つだ。

ドSもたいがいにしろ、マーベル!
[究極のクローン]

ピーターが指摘したクローンの欠点、それを解決するためにジャッカルはオットー・オクタビアスと手を組んだ。悪党であるドクターオクトパスを仲間にすることに抵抗を覚えながらも、彼の持つ「スーペリア」な頭脳は大きな助けとなる筈だと考えたジャッカル。オットー・オクタビアス復活の全貌はクローン・コンスピラシー本編では明かされないので、アメイジングスパイダーマン誌20号をチェックだ。

オットーと拉致したアナマリアの助けもあり、組織崩壊を起こさないクローンボディを開発することに成功するジャッカル。しかし、ここでジャッカルはオットーとアナマリアの怒りを買ってしまう。彼女の身体を欠陥と称し、クローンボディで優秀な頭脳を活かすべきだと語ってしまったのだ。小人症であるアナマリアにとってジャッカルの提案は侮辱以外の何物でもなく、オットーも愛する女性を貶されたとあっては黙ってはいられない。

契約を破棄し、ジャッカルに反旗を翻すオットーだが、彼の身体は旧式のクローンボディ。組織崩壊からは逃れられない。オットーの「今後」の鍵を握るのが、このクローンボディなのだ。

アナマリアを侮辱したジャッカルを襲うオットー。彼の行動もまた本シリーズでの「肝」の1つだが、彼には次のステージが用意されているのが特徴。破局したオットーとアナマリアの関係にも僅かに変化が描かれるのもポイントだ。

 

クローン・サーガの系譜たるクローン・コンスピラシーもまた、スパイダーマンの歴史に欠かせない爪痕を残すサーガの1つ。そんな物語の中でピーターやジャッカルだけでなくジェイムソンやグウェンにオットー、世界を守るために平行世界からやってきたスパイダーグウェン(この頃はまだゴーストスパイダーを名乗っていない)に二代目スカーレット・スパイダーことケイン、愛する者のために戦うライノやリザードにキングピンと様々な者たちの思惑が交錯する。

「死」を超越するという生命の倫理を脅かす野望は歴史だけでなく登場人物たちにもまた、大きな爪痕を残した。それが彼らの物語にとってターニングポイントとなったのは間違いない。