拳〈フィスト〉にチェーン、魂〈ソウル〉に正義。
というわけで、今回は実写映画版ゴーストライダーの紹介だ。
ゴーストライダーはこれまでに二度実写化されてきたが、今回とりあげるのは2007年に公開された一作目のゴーストライダー。
筆者としても初めてゴーストライダーを知った思い出深い作品だ。
主人公のジョニー・ブレイズをニコラス・ケイジ、ヒロインであるロクサーヌ・シンプソンをエヴァ・メンデス、ヴィランであるメフィストを故ピーター・フォンダが演じたことから公開前から注目を集めていたようだが、何よりも注目を集めた要因はゴーストライダーのヴィジュアルだろう。
燃える骸骨頭の男が真っ黒なレザージャケットを纏い、燃える鎖を武器に悪魔たちをしばき倒し、これまた燃え盛る改造バイクで街を荒野を爆走するという、異色のダークヒーローが銀幕に現れた衝撃は大きかっただろう。
【あらすじ】
バイクスタントの興行でアメリカを旅する少年時代のジョニー・ブレイズとその父バートン・ブレイズ。ジョニーは父とのスタントの傍らで幼馴染で恋仲であるロクサーヌ・シンプソンと駆け落ちをしようとする。だが、父に癌が発症していることをジョニーは知ってしまう。
深夜、愛車を整備する中、恋人か父か、どちらを選ぶかで苦悩するジョニーに悪魔メフィストが現れ、彼にある契約を持ち掛ける。ジョニーの望みを叶える代わりにメフィストに魂を捧げる、と。
ジョニーはメフィストとの契約に応じ、バートンの容態も回復。しかし、バートンはショーのアクシデントで死亡、メフィストが仕組んだものだったのだ。失意に暮れるジョニーはロクサーヌを捨て、父のバイクで荒野を掛ける。
そして現在…。大人になり立派なスタントマンとなったジョニーの前に再びメフィストが現れ、彼に地獄を支配せんと企む悪魔ブラックハートを連れ戻すよう依頼する。当然ジョニーは断るが、メフィストはそれを許さない。契約は絶対。
ジョニーの魂に植え付けた復讐の精霊、ゴーストライダーが目覚めようとしていた…。
アメコミ映画は当然アメコミを原作としたものだが、このゴーストライダーもその例に漏れず、ジョニーがメフィストと契約し、ゴーストライダーが憑依することや、恋人ロクサーヌとのギクシャクした関係はジョニー・ブレイズがコミックで初登場したエピソードが元となっている。ただし、映画では父であるバートン・ブレイズが癌を発症し事故で亡くなるが、コミックではロクサーヌの父でありジョニーの養父であるクラッシュ・シンプソンが癌に倒れ、事故で亡くっているという違いがある(バートンは既に死去している)。
メフィストとの契約により、燃えるバイカーとなったジョニーだが、制御出来ない悪魔の力に振り回されながらも、ゴーストライダーの本能のままに罪人を打ち倒す傍ら、ブラックハートと彼の手下たちを追跡、1人ずつ着実に始末していく。
そう、今作のゴーストライダーはめちゃくちゃ強い。
人智が及ばない異形の悪魔たちも十分な強さを持つが、そんな彼らを赤子の手をひねるかの如く無双していくのだから実に痛快だ。途中でブラックハートが起こした怪事件の重要参考人とジョニーをマークする警察の追跡を振り切り、彼らに嘲笑いながら中指を突き立てる姿もたまらない。クールだぜ。
そんな強いゴーストライダーだが、ヒトが制御できない力に振り回されるジョニーはボロボロに。追い詰められるジョニーの前に現れるのはゴーストライダーの謎を知る老人、ケアテイカーことカーター・スレイド。
ゴーストライダーの力は〈チャンス〉だと、自分の進む道を示す道標になる。ケアテイカーからの忠告もあり、ゴーストライダーの力に向き合おうと努めるのと同時にかつては捨てたロクサーヌとも向き合い、謝罪しようと四苦八苦。ロクサーヌもロクサーヌでジョニーには未練たらたらなこともあり、よりを戻そうと考える。この男女関係の結構リアルな描写は当時では珍しい気がする。
ケアテイカーの教えもあり、少しづつゴーストライダーの力をコントロールする術を学ぶジョニーだが、彼の力を逆に利用しようと企んだブラックハートによってロクサーヌを誘拐されてしまう。
嘗ての恋人を救うべく、正体を明かし、先代のゴーストライダーとしての姿を現したケアテイカーと共に荒野を疾走する姿は非常にカッコいい。この一連の流れは本作の一番の見所と言えるだろう。
若気の至りか軽率な判断で父を失い、恋人を捨て、メフィストやブラックハート、そしてゴーストライダーといった強大な悪魔に振り回されながらも、藻掻き足掻くジョニーの姿が非常に印象に残る。ある意味最も等身大のヒーローといえるかもしれない。変身後の姿は異形そのものだが(だがそこがいい)。
ブラックハートを倒し、メフィストに反逆し、ゴーストライダーそしてジョニー・ブレイズとして戦うこと〈チャンス〉を選択したジョニー。
彼は今でも地獄の悪魔たちと戦い続けているのだろう。広大なマルチバースの何処かで。いつかまた彼に出会いたいものだ、永遠のマイヒーローに。